もっとも青木氏も、社会人になった頃からこうした考えを持っていたわけではない。17歳で北海道から家出をして東京へ。社会人のキャリアは溶接工見習いからスタートし、「社会の底辺を見るような職業」を転々とした。20代前半で起業したものの倒産、挫折と多額の負債を抱えたが、ひょんなことから入社したブリタニカの営業職で頭角を表す。猛烈に働き、トップセールスマン、さらにトップマネジャーへと上り詰めた。
そんな中、29歳で大きな転機が訪れる。恩師となる夏目志郎先生との出会いだ。能力開発コンサルタントでありトップセールスマンだったクリスチャンの彼に誘われ、青木氏はキリスト教の伝道大会に参加した。
「牧師の『神様があなたを休ませてあげます』『人間はどんなに努力をしても、罪深い存在なので、自分の行動では救われないのです』という説教は心に強く響きました。私には当時、トップマネジャーという自負と虚栄心があり、営業こそが全てと信じていました。でも一方で、いつも満たされない気持ちもあったのです。私が一番欲しかったものは『愛』だと気づきました。その時、聖書の『自分を愛するように、あなたの隣人を愛せよ』というみことばを知り、私は変わったのです。『何事でも人々からしてほしいと望むことは、他の人々にもそのようにしなさい』というマタイによる福音書7章12節は、私の座右の銘となりました」
聖書のことばが青木氏の土台に入ったことで、人生の目的が『競争・力』から『愛・誠実・感謝』へと180度変わった。彼がいま能力開発を行う事業で用いる「アチーブメントピラミッド」という概念は、「人生理念」・「ビジョン」という目的を土台として据え、その上に「目標」「計画化」「日々の実践」の5段階からなる。ブリタニカ時代は理念・ビジョンという土台がなく、目標がエゴイズムであったがために幸せを感じることができなかった。それが、「何事でも人々からしてほしいと望むことは、他の人々にもそのようにしなさい」という聖書のことばを具象化していくと、必要なものが与えられ、協力者が集まってきたと言う。
事業で人を重視するアチーブメントにとって、「ファンづくりは何より大事」(青木氏)だ。販路の拡大は、口コミが中心の同社にとって、お客さまとの信頼関係があってこそ。充実した商品やサービスへの満足はもちろん、営業パーソンの誠実な人柄がお客さまを引きつけることは間違いないだろう。
こんなことがあった。ある企業の採用コンサルティングで、約束した人数を採用できなかった。青木氏はコンサルティング料金の全額返金を申し出たが、相手も勉強になったと最終的には半額で決着。その企業はいまも人材採用を希望している会社にアチーブメントを紹介してくれるという。まさに、「事業は人と人とのつながりで成り立っている」(青木氏)。
翻って、マーケットプレイスで今まさに活動している私たちは果たして、隣人を愛し、自分がしてほしいことを他の人にもしているだろうか。ビジネスで成功するための鍵がここにある。青木氏はこうアドバイスする。
「相手にとって信頼に足る人間でなければ、伝えたいことがあっても伝わりません。聖書は『霊の結ぶ実は、愛、喜び、平安、寛容、親切、善意、誠実、柔和、自制です』と言っていますが、このような生き方を実践し、示すことができるなら間違いなく信頼を得ることができます。人は、そのような魅力のある人のところへ集まるのです」